沖縄タイムス・リレーエッセイ「どんぐりころころ」
第2回 平成18年8月4日掲載
「きっと大丈夫 / 温かな言葉に晴れた心」
その日私は全てが予定通りに進まなかったことにイライラしながら、息子の目の検診で帰省していた大阪の地下街を歩いていた。ふと視線を感じてそちらを見ると、年配の女性が私達親子をじっと見ていた。眼鏡とアイパッチをした息子はどこに行っても視線を浴びる。いつもなら無視するのだが、その時不機嫌の絶頂だった私は思わずこう言った。「何ですか?何かおかしいですか?!」
その女性がギョッとしたのを横目で見ながら、ふん!と通り過ぎようとした時、「あの…お子さん、弱視なんですか?」と声をかけられた。今度は私がギョッとした。思わず振り向き、目を丸くしてうなずくと、女性が続けた。「実は私の娘も弱視で、小さい時アイパッチをしていたの。もう何十年も前だけど。その頃はこんな人混みでアイパッチをさせるなんて考えたこともなかったから、堂々と歩いているあなた達を見て感心してたのよ。アイパッチは、する子どもも大変だけど、させる親も大変でしょう?あなた、本当によくがんばってるわ。きっとこの子は良くなるわ。」
黙って聞いていた私の目に、熱い物がこみ上げてきてうつむいた。そんな風に、見知らぬ誰かに暖かく励まされたのは初めてだった。はずかしくて、そしてうれしかった。うつむき震える私の肩にそっと手を置き、その女性がおだやかに言った。「何年もかかって辛かったけど、娘はちゃんと良くなったわ。あなた達も大丈夫、きっと大丈夫。」人混みの中立ちつくし、涙を流す母の姿を、息子が不思議そうに見上げていた。
あからさまな興味本位の視線。「かわいそうに」という同情の目。息子に注がれる視線は全部、そんなものだと思っていた。その日私は初めて知ったのだ。注がれる視線の中には、こんな暖かな視線もあるのだということを。くすんで曇り、大切なことを見落としていたのは、私自身の心の目だった。
女性の後ろ姿を見送りながら、これから私の何かが変わる、そんな気がした。「大丈夫、きっと大丈夫。」女性の言葉を小さくつぶやきそっと手をつなぐと、息子がうれしそうに笑った。。
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